あけほのむらさき手帖

いと白く清げなる紙ほの光り花鳥うたふ旅にいざなふ

天の海に雲の波立ち月の船

 万葉集のこの一首には、鳥肌が立った。心を揺さぶられるというよりも、はっと息を呑む感じである。千歳を隔てた古歌で、これほど瞠目したことはなかった。

 天を海、雲を波、月を船、星を林に見立てている。解説によると、漢語の造語法の模倣だそうだ。それにしても、夜空に果てしないファンタジーが広がり、ため息がもれる。天海に広がる情景を、これほど美しい視覚でとらえることは比類を見ない。夜空の歌に関して無双だと断言したい。

 人麿歌と言われているが、確証はないようだ。雑歌の巻頭にあり、往時も魅力的な一首だったことが伺われる。

天を詠める

天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ

詠天

天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見

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